足底腱膜炎
足底腱膜(plantar aponeurosis)は、手の手掌腱膜に匹敵する非常に強靭な直立二足歩行を行う人間にとっては最も重要な健膜であり、足部の縦アーチを構成する。縦に配列された線維性結合組織帯からなり、骨隆起内側突起から起こって各趾に向かってアングロゴシックアーチ状に分岐する。足底腱膜炎は足底部を覆っている足底腱膜全体に起きる疼痛、圧痛をきたす疾患をさし、踵骨棘(calcaneal spur)による疼痛も範疇に入ると思われる。
病態
足底腱膜は歩行、ランニング、ジャンプによる衝撃の緩衝作用をもち足部の傷害を防いでいるが、overuse により踵骨の起始部、または足底中央部に疼痛が出現してくる。これらの biomechanical factor としてハイアーチ(cavus foot)、過回内足(pronation foot)、扁平足(flat foot)に多くみられる。ハイアーチ、過回内足では足底腱膜の柔軟性に乏しく、扁平足では mid stance 時に強い回内が生じ腱膜は緊張を強いられる。とくに toe off での緊張の繰り返しは踵骨起始部、中央部に micro tear を生じる。とくに踵骨部では calcaneal spur を生じ、spur と腱膜の間で enthesitis が起こり疼痛をきたすものと思われる。中央部では繰り返される衝撃のため micro tear が無数に生じ、腱膜自体が著明に肥厚し瘢痕形成している症例もある。また、踵骨内側部には脛骨神経の内側骨枝と外側足底神経が通っており、これらが腱膜の肥厚などによりentrapment および impingementされるのではないかと思われる。とくに屈筋支帯と足底腱膜内側帯の entrapmentに問題があるように思われる。
症状
足底の疼痛が主である。とくに朝起きたときの一歩が痛くてたまらないと訴える者が多い。スポーツ選手の場合、ランニングなどでtoe offのときに踵骨部や足底中央部内側に疼痛をきたすことが多い。また、踵骨底内側部に著明な圧痛を呈する。踵骨内側部では Tinel 様圧痛を呈し、足底外側に響く感じがすると訴える者もある。足底中央部では著明な硬い肥厚を認めるものがある。スポーツ愛好家のジョガーやゴルファーに多くみられる。
診断は踵骨部底内側部および足底中央内側部の著明な圧痛で容易につく。
治療
急性期の場合は局所の安静が最も重要であり、免荷歩行を厳守させる。症状が激烈な場合ステロイド剤の局所注入も有効であるが、回数を十分考慮に入れ頻繁に行うのは危険である。急性期を過ぎれば衝撃吸収性の高い orthosis としてビスコヒールなどを用いて歩行させる。また、内側アーチサポートを強いる orthosisなども有効である。ストレッチングは母趾を背屈させた青竹踏みが最も効果的である。
足底腱膜炎は長期化するものが多く、保存的療法が無効の場合も多く難渋することが多い。
諸家の報告では踵骨起始部で腱膜を切離する方法が述べられているが、これは日常生活を行う場合はほとんど問題ないと思われるが、スポーツ選手にとっては足部のアーチ構造の破壊につながり危険な方法といえる。
後療法としては、足底の組織は瘢痕形成しやすく、十分な免荷が必要である。
2週間の完全免荷、2週目よりビスコヒール装着にて歩行許可、4週目よりジョギング程度のスポーツは許可、8週目よりスポーツ完全復帰としている。
足底腱膜炎の成因を spur による enthesitis と脛骨神経の内側踵骨枝および外側足底神経などの entrapment, impingement によるものと、腱膜中央部での microtearによる瘢痕形成(肥厚)によるものと考える。